元選対顧問ロジャー・ストーン起訴と「ロシア疑惑」

トランプ大統領の旧友で元選挙対策本部顧問のロジャー・ストーン2019年1月24日(木)(以下,いずれも現地時間)にワシントンD.C連邦地裁大陪審により正式起訴された。訴因は,7つで,連邦議会における偽証が5つ,司法妨害と証人への不当な干渉が各1つずつである。これを受けて,FBIの武装部隊が同月25日(金)未明に彼のフロリダの邸宅に逮捕令状をもって急襲し,身柄を確保した。あわせて,ニューヨークにある彼のアパートの一室にも捜索差押令状をもって立ち入り,ハードドライブなどの証拠物を押収した。
その後,同日の午後には,フロリダ州にある連邦地裁の裁判官の前で,いわゆる「逮捕後最初の審問」が開かれ,罪状認否(ここでの認否はあまり意味がない)とともに保釈条件が審問された。その結果,保釈保証金25万ドルと旅行制限等の条件が付された上で,保釈された。
本件起訴は,2016年11月の大統領選挙において,ロシアがトランプ大統領を有利にするため,クリントン候補陣営に対しサイバー攻撃等をしかけた事件に,トランプ大統領も関わっていたのではないかといういわゆる「ロシア疑惑」に向けた,モラー特別検察官による究明活動の一環である。
もっとも,本件の起訴事実はその核となる部分に関するものではなく,派生的・間接的な事件にすぎない。大統領選挙では,機密情報の公開サイトであるウイキリークス(WikiLeaks)が,クリントン陣営に不利な情報を暴露した際,ストーンがトランプ陣営の幹部と連絡を取り,その代表者であるジュリアン・アサンジュに接触し,そこからさらに多くの不利益情報を取得し,選挙活動に利用しようとしたことがあったとされた。そして,かかる一連の不正な選挙活動に関し,ストーンらが議会で聴聞を受けた際,自ら偽証をし,また他の証人の証言にも不当な干渉を与えた等があり,それらの行為が犯罪にあるとされ,起訴されたわけである。
しかし,その過程で,クリントン陣営に不利な情報がロシアにハッキングされ,大規模なサイバー攻撃に利用される一つの契機になったとすれば,コーエン元顧問弁護士らに対する選挙資金流用問題(性的スキャンダルの口止め料にそれをあてたというもの)に比較すると,本件起訴事実は,「ロシア疑惑」により密接に関係する。したがって,モラー特別検察官の捜査は着実に一歩ずつその核心に迫っている一つあかしであろう。
とりわけ,本件起訴状に記載された,選挙対策本部の幹部(The associate and the high-ranking campaign official)とされた人が誰なのかに重大な関心が向けられる。もちろん,特別検察官らはその人が誰であるかを知っているはずなので,遅かれ早かれ起訴などにより明らかにされるであろう。おそらく,すでに別件で起訴された元選挙対策本部長のモナフォートか,娘婿のクシュナーかあるいはトランプ・ジュニアの可能性が高い。しかし,些細なことでも自ら決めないと気がすまない性格とされるトランプ大統領の可能性もあながち否定できない。
本件起訴では,まだ「共謀罪」(crime of conspiracy)に関する訴因はなく,共犯者についても匿名にしてその温存を図っている。ワシントンD.C連邦地裁の大陪審の任期をこの1月から6か月延長しておき,もっとも適切・有効な時に切り札を切る。そこにモラー特別検察官の思慮遠謀がうかがわれる。検察官の強力な武器である,「大陪審」と「共謀罪」を彼がいつどのような形で使用するのか,興味深いところである。
日本ではそろそろ立春であるが,トランプ大統領にとっての春はいつ来るのか,あるいは来ないのか。